カスタマーハラスメント(暴行事案)で使用者に損害賠償責任はある?
 職場での暴行は、加害者が顧客や取引先の従業員であっても、使用者に安全配慮義務違反が認められる場合があります。病院では患者による暴行事例が多く、感染被害や負傷では損害賠償責任が認められた事例があります。使用者は顧客等からの暴行が発生するとの前提で、避難・応援体制や、被害者のメンタルケアを徹底する必要があります。

解説:カスタマーハラスメント(暴行事案)と使用者の損害賠償責任

 職場での暴行は、加害者が顧客や取引先の従業員である場合(カスタマーハラスメント)であっても、使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任が認められています。

 病院職員が患者から暴行を受けるケースも少なくありません。医師が患者に刺殺された事案や、患者の暴行によりC型肝炎に罹患した事案では使用者の損害賠償責任が認められています。

 他方、東京地裁判決(平成25年2月19日)は、1回目の暴行による負傷については安全配慮義務違反を認めたものの、2回目の暴行による適応障害の発病についてはこれを否定しました。

 すなわち、東京地裁判決は、1回目の暴行につき、「入院患者中にかような不穏な状態になる者がいることもやむを得ない面があり、完全にこのような入院患者による暴力行為を回避、根絶することは不可能であるといえるが、事柄が看護師の身体、最悪の場合生命の危険に関わる可能性もあるものである以上、被告としては、看護師の身体に危害が及ぶことを回避すべく最善を尽くすべき義務があった」とし、「被告としては、そのような不穏な患者による暴力行為があり得ることを前提に、看護師全員に対し、ナースコールが鳴った際、(患者が看護師を呼んでいることのみを想定するのではなく、)看護師が患者から暴力を受けている可能性があるということをも念頭に置き、自己が担当する部屋からのナースコールでなかったとしても、直ちに応援に駆けつけることを周知徹底すべき注意義務を負っていた」と判断しました。これに対し、2回目の暴行による適応障害の発病については、「病院内で不穏な患者による暴力が日常的に起こっているという状況下において、看護師が患者から暴力を振るわれることにより傷害を負うということ自体は一般的に予見可能であるということができるが、同じ状況下であっても、患者から暴力を振るわれたことによる心理的負荷を原因として精神障害を発症するということが当然に予見可能であるということはできない」として、安全配慮義務違反を否定しました。

 暴行による精神疾患の発病についてはケース・バイ・ケースとなるでしょうが、負傷に関しては使用者の損害賠償責任が認められる事案が多いので、使用者は、暴力を振るうクレーマーから労働者の生命・身体を保護するために、安全配慮義務として、労働者が安全に業務に従事できる措置を講じておかなければなりません。顧客等からの暴行が発生するとの前提で、逃げる場所を確保する応援要員が駆け付けるなどの具体的な施策をあらかじめ検討しておく必要があります。当然ながら、職場で暴行を受けた労働者に対するメンタルヘルスケアも忘れてはなりません。

 

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