過労死や労災事故の損害賠償をめぐる帰責事由と消滅時効とは

安全配慮義務違反の損害賠償における債務者(使用者)の帰責事由

 過労死や労災事故をめぐる安全配慮義務については、民法上、債務者(使用者)の帰責事由が問題となります。

 安全配慮義務の立証責任について、債権者である労働者側は、損害に対する特定された具体的安全配慮義務の存在と、使用者が同義務に違反した事実を立証しなければならないというのが最高裁判例です。

 これに対し、使用者は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」(民法415条1項ただし書)の不存在を基礎づける事実を立証します。その上で、安全配慮義務違反=使用者の過失について、①契約その他の債務の発生原因と②取引上の社会通念から判断されることになるのです。裁判実務上、①については、就業規則、労働契約書、職務記述書、辞令などから安全配慮義務の内容が評価されることになり、②については、法令、行政機関の指針・通達、裁判例、業界の動向などから安全配慮義務違反が評価されることになると考えられます。

 そうであれば、就業規則を基本部分しか定められていない、労働契約書は定型的な書式で済ませているという場合は、民法に対応できないおそれがあります。労働者個人との労働契約書については、採用時の事情や職務内容なども具体的に書き込むことが考えられます。売買契約書などの商取引では契約の背景から書き込む必要が出てきますので、労働契約が例外というわけにはいかないでしょう。

 労働契約の成立の場面に限らず、メンタルヘルス不調により就業上の措置をする、職場復帰支援プランを作成するといった場合は、労働契約の変更の場面となるので、当該労働者の健康状態、就業上の措置を講じる必要性、今後の勤務形態、今後の処遇、就業上の措置解除の予定などを決定書に具体的に書き込んでおくことが肝要です。契約変更時やその内容の解釈をめぐって個別的労使紛争が発生することが少なくないので、あらかじめ証拠づくりをしておきましょう。

安全配慮義務違反の損害賠償債権の消滅時効

 過労死や労災事故をめぐる安全配慮義務については、民法上、債権(損害賠償請求権)の消滅時効が問題となります。

 民法は、生命・身体の侵害による場合は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間または②権利を行使することができる時から20年間と定めています。

 ①について、売買契約であれば代金の支払日が定められているのが通常であり、約定期日に売買代金が支払われなければ、債権者である売主は「権利を行使することができることを知った」といえます。これに対し、過労死をした日に使用者が損害賠償金を支払わなければ、債権者である遺族が「権利を行使することができることを知った」とまでは認められません。

 この点につき、契約関係にない不法行為(例:交通事故)に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知った時を時効進行の起算点とするのですが、これは被害者が損害の発生を現実に認識し、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時と解するのが最高裁判例です。そうすると、労働基準監督署長が労災認定の決定をしたときに損害および加害者を知ったと認められる場合があり、①についても同様に解釈することができます。

 企業としては、長時間労働などの過重労働が明らかな事案はもちろんのこと、過重労働とは認められないのに紛争が懸念される事案については、例えば労働時間に関する記録が3年、健康診断や面接指導の結果に関する記録が5年と保存期限を定めていても、期限を超過した記録を保存するかどうかを検討する必要が出てくるでしょう。

 

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