【事案と受任前】
業務経験者の契約社員を中途採用したところ、能力不足でミスが多かったことから、期間途中で解雇したところ、ユニオンに加入して団体交渉を申し入れてきました。知人の社会保険労務士より相談を受け、会社と協議したところ、当職が代理人には就任せず、団体交渉に出席する役員を裏方よりサポートすることになりました。
【弁護活動と結果】
まず当職より会社に対し、期間途中の解雇は「やむを得ない事由」が必要となり、ハードルが高くなるので、労働審判や訴訟に至っても金銭解決するには一定の額を支払うことになることを説明した上で、金銭解決をする方針とし、解決金の額は解雇が有効であるとしても紛争解決のために支払う金額に近づけることを獲得目標とすることに決めました。
最初に、不誠実団交と非難されないようにする一方で、団体交渉には会社側の意向を反映させるため、当職が団体交渉申入回答書を起案し、会社より送付しました。
これと同時に、会社側が元契約社員の様々なミスやこれに伴う指導を記録していたので、団体交渉時から裁判も見据えた解雇理由を説明することとし、役員等と打ち合わせの上、当職が、会社側の記録していた表を補充・修正しつつ、詳細な解雇理由書を起案しました。
当該会社は団体交渉が初めてであったことから、当職が、当日の流れを記載したシナリオ、当日に口頭で説明する解雇理由やユニオンから出されると想定される質問に対する回答などを記載した想定問答集を起案し、これをもとに役員らが団体交渉に臨みました。当職は第1回団体交渉が開かれている時間は予定を入れず、事務所で待機し、いつでも出席役員からの電話に応答できるような態勢を作りました。
団交の出席者に議事録を作成してもらい、これをもとに解決案を検討し、当職が回答書を起案し、会社より送付しました。
ユニオンより、入社時の指導内容に関する質問と第2回団体交渉の申入れがなされたことから、当職が、団体交渉の開催に関する回答書を起案しつつ、会社側と打ち合わせの上、指導担当者がまとめた素案を裁判でも通用するよう補充・修正しました。
指導内容や解雇理由を裏付ける資料も同時に準備し、団体交渉には提出しなかったものの、証拠は揃っているという前提で第2回団体交渉に臨むと、元契約社員やユニオンは一切の反論ができなくなりました。
この状況下で解決金額について協議した結果、要求の約3分の1相当額の解決金を支払うことで退職するとの労働協約が成立しました。
【解決のポイント】
手数はかかっても、裁判でも通用するよう、丁寧に解雇理由を説明したことが、解雇無効との前提ではないレベルの金銭解決をもたらし、裁判に至らず団体交渉で終了する結果につながりました。
本件は、弁護士のサポートを受ける前からミスや指導の内容を記録していたことが功を奏したのですが、いくら弁護士でも何らの記録や証拠もない中で結論を覆すことはできません。
手間でも記録を取ることは、労働問題だけでなく、商取引でも、トラブルになったときに有利に働きます。そのため、法的紛争が懸念される段階から弁護士がサポートすることが望まれます。団体交渉に出席した役員からも、記録を取ることの重要性を痛感したとのコメントをいただきました。