セクシュアルハラスメントによる精神疾患と損害賠償

 女性社員が忘年会の帰りに職場の上司と2人きりとなり、その際にセクシュアルハラスメントを受け、ショックから精神疾患を発症した場合、使用者は、女性社員に対して損害賠償責任を負うのでしょうか。

 使用者は、被用者が労務に服する過程で、被用者の人格を尊重し、その労務の提供に重要な支障を来す事由が発生することを防ぎ、またはこれに適切に対処して職場が被用者にとって働きやすい環境を保つように配慮する義務(職場環境配慮義務)を負っています。

 使用者は、自らがこの職場環境配慮義務に違反してセクハラ防止措置を講じず、また管理職、上司、同僚、部下、得意先等が事業執行の過程において労働者の意に反する性的な言動を行い、被害を与えたという場合には、その労働者に損害賠償責任を負います。

 性的な言動が労働者の意に反するかどうか(望まない言動か、不快か)は、被害者の主観的な感情を基準にするのではなく、通常の労働者の感じ方を基準に判断するというのが裁判例の傾向です。

 上司が女性社員の意に反する言動を行ったのであれば、職場の上司という優越的地位を背景にしたセクハラは、違法性が肯定されやすくなります。

 また、女性社員が通常以上に性的感受性が強いというわけではなく、優越的地位にある職場の上司から女性社員が申告してきた態様のセクハラ行為を受けたというのであれば、他の女性であっても不快であることを表明する場合は、違法なセクハラと評価されます。

 さらに、加害者に強制されたわけではなくても、その意向に逆らえば不利益を受ける場合、また抵抗後の悪影響を恐れた場合には「意に反する」セクハラ行為といえます。

 仮に女性社員から裁判で訴えられることになっても、安易に被害女性の落ち度や無抵抗を問題視することは得策とはいえないでしょう。

 上司が「何もしていない」とセクハラを否定するのであれば、まずは女性社員からセクハラについて事情聴取をすることになります。しかし、精神疾患を発症していると診断されているのであれば、事情聴取の時期は症状が軽快した後がよいでしょうし、男性が調査するのは避け、女性を担当者にして事情聴取させるなどの注意が必要です。その際には診断書やその他の証拠物を提出してもらいましょう。

 上司が否定し、被害女性が体調不良であり、事実確認ができないとしても問題を放置すべきではありません。

 上司がセクハラを否定しているとしても、女性社員から事情聴取をしたり、証拠物の提出を受けたりするなどした結果、上司がセクハラを行ったことについて相当な根拠と理由があると認められるときは、調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的である場合に当たるとして、上司を業務命令により事情聴取することになります。上司がこの調査を理由もなく拒否したときは懲戒処分を課すことになります。

 調査の結果、セクハラの存在につき合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の根拠と理由が具備されるときは、女性社員の損害賠償請求に対し、使用者は適切に対応しなければなりません。

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