配置転換の効果を大きくするには?

 配置転換は、従業員個人レベルにおいて、能力の養成やモチベーションの向上が期待できます。一方、組織全体レベルにおいては、多様なスキルや経験を持つ従業員を新たな価値を生み出す人材に育成できる、経営資源である人的資源や情報的資源を多重利用できる、機能別組織において部門間の連携が図られる、組織が活性化するといった効果が期待されます。

 この組織的効果を大きくするため、▽自己申告制や社内公募制により従業員の主体性を重視する、▽従業員本人の意思や候補者間の競争により計画的に実施することに留意します。

自己申告制や社内公募制は、配置転換と同様に、従業員の能力養成やモチベーション向上、職場のコミュニケーションの円滑化や組織の活性化といった効果が期待されます。ただし、従業員が萎縮しないよう、直属の上司を介さずに自己の希望を伝えられるようにすることが肝要です。

 ただし、配置転換は、メリットばかりではありません。

 「心理的負荷による精神障害の認定基準」は、配置転換を業務による心理的負荷を生じさせる出来事に挙げているので、従業員にとってストレッサーになり得ることを想定する必要があります。本人の意向に反する配置転換をして、業務の内容や量が変化したにもかかわらず、使用者が必要な支援をしていなかったことから、従業員が心理的負荷を受けて精神障害を発病した場合は、使用者に損害賠償責任が認められることがあります。

 また、就業規則に配置転換の定めがあり、実際に配置転換が行われるという前提で労働契約が締結されれば、使用者は配転命令権を有するのですが、業務上の必要性が存しないとき、配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたとき、従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるときには、配転命令権の行使が権利の濫用であるとして配置転換が無効になると、最高裁判所は判断しています。配置転換について、法的には従業員の個別的同意が不要であるとしても、本人の意思や主体性を尊重し、十分な説明をした上で協議を尽くしていないと、労働トラブルに発展する可能性があります。

 しかも、配置転換に伴う業務変更により降格や減給になる場合、就業規則において、降格や減給の事由・方法・範囲などについて具体的かつ明確な規定を設けていなければ、配置転換は有効であるとしても、降格や減給は無効となります。仮に就業規則に降格の根拠規定があったとしても、降格をする業務上の必要性が低く、従業員の有する業務遂行能力に比べて低い格付けをすることを使用者が一方的に決定した場合は、人事権の濫用として無効と判断されることがあります。また、降格と減給の規定があっても、両者が連動していないのであれば、減給を伴う降格をする場合は従業員の個別的同意を得なければならず、従業員が自由な意思に基づく同意をしていなければ減給は無効となります。

 以上より、配置転換のマイナス効果と労働トラブルを予防するため、事前に就業規則の根拠規定を定めておくこと、従業員の意向や労働条件の不利益変更に配慮した上で配置計画を策定することが望ましいでしょう。

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