自己流の機械操作中に手指が巻き込まれた労災事故における使用者の損害賠償責任

 高校を卒業したばかりの新入社員が操作中の機械に手指を巻き込まれて左手の4指を切断した労災事故につき、その作業員が、会社から支給された手袋ではなく、市販の手袋を使用したこと、機械作動中に触れてはいけない箇所に触れたことが事故原因である場合、会社は損害賠償責任を負うことになるのでしょうか。

 第1に、経験の浅い作業員が機械操作をするに際しては、安全教育を徹底しなければなりません。具体的には、作業に習熟した従業員に指導させて、適切な方法により作業の行程を遂行できるように習得させるとともに、その作業方法・状況などを監督し、危険な方法で作業をしたり、機械の危険な操作・運転をしていればこれを是正したりするなどして、安全に作業ができるよう配慮する義務が、裁判例において認められています。特に未経験で単独作業を始めた際には作業の中止を含めた適切な措置が必要となります。

 また、経験の浅い労働者に助手を配置していれば事故を防ぐことができることもあり、会社がこれを怠ると安全配慮義務違反となります。東京高裁判決(平成13年3月29日)は、造粒機のバルブに右腕を巻き込まれて切断した事故につき、機械の構造や作業上・安全上の注意事項などについての説明・指導をしないまま、入社半年余りで初めての造粒機の操作に一人で従事させ、他に経験豊かな従業員を配置しなかったのは、作業上の安全確保のための配慮を欠いているとして、安全配慮義務違反があると判断しました。

 第2に、作業員が自己流で機械操作をしていたとしても、会社は安全配慮義務を免れるわけではありません。この点につき、会社は、作業員が自己流の危険な機械操作を続けていることを注意していたにもかかわらず、安全装置解除のための鍵を当該作業員に渡し、自己流の機械操作を黙認してきたことは、安全装置下での作業を当該作業員に対し徹底すべき義務に違反しており、自己流の機械操作を黙認する以上、その機械操作によっても事故が発生しないように装置を改善すべき義務に違反していると判断した裁判例があります。

 自己流で市販の手袋を使用し、機械作動中の接触禁止箇所に手を触れたことがあったとしても、会社が新入社員に対する安全教育を十分に行っていなかったり、危険な作業を黙認していたりした場合は、会社は損害賠償責任を負うことになります。

 ただし、作業員の行為も事故原因である以上、過失相殺により損害額が減少することは免れません。過失割合をどの程度にするのかにより損害額が変わってきます。

 労働者の過失割合が大きい場合は示談により解決した方がよいケースもありますので、労働者との交渉段階から弁護士に相談されることをお勧めします。

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