クレームを聞くことが精神衛生上よろしくないことは誰しも経験上分かることでしょう。精神障害の労災認定基準においても、業務による心理的負荷を生じさせる出来事としてクレーム対応が挙げられています。
労災認定基準では、「顧客や取引先から重大な指摘・要求(大口の顧客等の喪失を招きかねないもの、会社の信用を著しく傷つけるもの等)を受け、その解消のために他部門や別の取引先と困難な調整に当たった」という場合、または、「顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」、「顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた」という場合であれば、ストレス度は「強」となり、社員がうつ病を発病すれば労災認定されます。出来事自体でストレス度が「強」と評価されなくても、ノルマの不達成、新規事業の担当、仕事内容・仕事量の大きな変化、長時間労働、配置転換、上司とのトラブルといった他の業務による精神的ストレスを生じさせる出来事が近接した時期に発生すれば、ストレス度が「強」と総合判断されることがあります。
従業員の精神的健康が害されることを予防することも生産性を向上させる点から重要です。そのためには、担当者に単独でクレーム対応させるのではなく、職場や上司が支援することが必要です。職場で支援するためには、担当者だけが情報を保持しているのではなく、職場で共有し、認識を共通にすることが必要です。
ただし、上司は相談対応のプロではないので、専門の部署が相談窓口になる方が適切な場合もあります。企業の実情に応じて職場の支援体勢を確立することが肝要です。
事案によっては、弁護士に相談して助言を受けたり、クレーム対応を依頼して担当者の荷を軽くしたりすることも必要でしょう。