いざパワーハラスメントが発生したとき、どのように対応するのかが重要となります。
ハラスメント相談窓口に申告があったら、早期に事実調査を開始しましょう。
まず、被害者の心身の状況やパワハラが行われた際の受け止めも踏まえつつ、被害者からヒアリングをします。丁寧に、粘り強く話を聴くことが必要です。
被害者からの話をもとに、パワハラが行われた現場を検証したり、パワハラを裏付ける証拠(被害者の手帳、録音、電子メール、写真等)を保全したりするなど物証を確保します。
被害者からの聴取だけで、パワハラの有無を即断するのではなく、パワハラをしたと訴えられた加害者や同僚など関係者のヒアリングをします。
加害者については、加害の事実がある場合であってもこれを否定する態度に出ることを想定します。このような態度を取ったら、パワハラ防止の趣旨を説明するほか、調査に協力するよう説諭します。説諭しても加害者が応じない場合はヒアリングを延期し、一定の期間を空けた上で再度聴取を実施します。
そして、被害者の主張する事実が同僚など第三者の証言を含む証拠に裏付けられるかを評価します。しかし、必ずしも客観的な証拠が十分に揃うわけではなく、事実認定は難しいので、弁護士に助言を受けるか、または依頼をすることが考えられます。
調査終了後に、被害者に対し、事実調査の結果や懲戒処分などの対応を説明します。ただし、加害者に懲戒処分を科す場合、被害者に対して具体的な懲戒内容を説明することは、加害者の個人情報保護の観点から慎重に検討した方が望ましいです。
では、パワハラの再発防止をするため、加害者に対し、どのような指導をすればよいのでしょうか。
パワハラの損害賠償責任を認めた判決では、自殺した若い事務員のミスが減らなかった原因として、ベテランの上司が感情的に当該事務員に対する叱責を繰り返したことにより当該事務員の心理的負荷が蓄積されたことも相当程度影響していると判断されています。裁判所は、繰り返される業務上のミスとこれに伴う継続した叱責によるストレスを重視しているのです。パワハラの要因がミスである場合、ミス→叱責→ミス・・・という悪循環が生じます。部下がミスしたことを上司から叱責されることで萎縮してしまうと生産性が低下します。それが上司のイライラが高じる要因となり、言動がエスカレートしてしまいます。負のスパイラルは、部下に与える心理的負荷を増大させて、うつ病を発病させる危険性があるのです。
人事労務管理スタッフとしては、部下に対する接し方や指示出しの態様によっては部下の生産性を低下させ得ることを管理監督者に教育することが肝要です。
また、被害者に対し、どのような指導をすればよいのでしょうか。
負のスパイラルを食い止めるため、部下のミスと上司の叱責との双方を同時に止めるよう配慮することが重要となります。
パワハラの要因が業務上のミスである場合、その原因究明や改善策を検討します。そこで、従業員が適時にハラスメント相談窓口に相談するよう周知することが望ましいです。
一方、ミスの原因は、被害者の業務内容や業務分配が過大であることもあります。▽上司が業務の負担や遂行状況を観察して適切に指導をする、▽被害者の業務量を軽減することが必要です。パワハラをしている管理監督者では解決できないのであれば、人事労務管理スタッフが早期に介入し、業務分配の見直しや増員を検討すべきです。
さらに、パワハラ問題が解決したらそれでおしまい、ではなく、ここから得られた教訓を再発防止策に反映することが肝要です。パワハラを個別問題として片付けず、職場や組織の問題として、パワハラを発生させる要因を低減し、管理監督者や従業員に対する意識啓発をします。これにより職場の人間関係が良好となり、コミュニケーションが円滑になります。パワハラ防止対策を実施して職場環境を良好なものとすることで従業員満足度が上昇すると、自社製品の品質とは別に、顧客や取引先へのサービス向上につながります。顧客満足度の上昇にも資するだけでなく、従業員の定着率が上昇することとなるでしょう。