管理監督者の部下に対する言動がパワーハラスメントに当たると評価された場合、職場秩序を回復して、加害者に言動を改めさせる手段といえるのが懲戒処分です。
懲戒処分を科す場合は、パワハラ6類型に当たる行為類型ごとに加重要素と減軽要素を考慮して処分の種類・程度を判断します。人事労務管理スタッフにとって悩ましいところですが、パワハラの厳罰化が進んでいる現状では、必ずしも先例に拘泥するべきではなく、証拠に基づき事実を認定した上で、加重要素と減軽要素を考慮して総合的に判断することになります。具体的な処分の種類と程度については弁護士に事前相談をすることが考えられます。なお、厳罰化に向けて運用を変更するときは、事前にその旨の周知とハラスメント防止の研修を徹底すべきでしょう。
懲戒手続に当たっては、その規定が就業規則になかったとしても、弁明の機会を付与した上で懲戒の種類と程度を決定することが望ましいです。
懲戒処分とは別に、降職、昇格の遅延および配置転換に伴い賃金を減額させる場合は、明文の規定に基づかなければ、労働契約の変更とは認められずに無効になることがあります。減額する賃金の種類、基準や金額を明記することも必要です。
また、制裁を科すことのみを目的にするのではなく、加害者へのフィードバックをするときに、加害者の言動にどのような問題があったのか、どのように対応すべきであったのかを指導して、加害者に気づきを与えることが肝要です。
次に配置転換について、パワハラと評価された結果、現在の職場に加害者がとどまっていると業務遂行に支障があるという場合は配置転換をする業務上の必要性が高いので、加害者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでなければ、その個別的同意がなくても配転命令を発令できます。
加害者を配置転換する際に、使用者が考慮しなければならないのは、配転先の職場や取引先に過去の被害者がいるかどうかです。配転先でもハラスメント防止対策を講じなければならないのは当然ですが、配転先でも過去に加害者からパワハラを受けた部下がいるとしたら、職場の人間関係に悪影響が出てくる可能性があります。配転先で同様の問題が再生産されたら、配置転換の目的は達成できなくなるので、人事労務管理スタッフとしては留意が必要です。
逆に、パワハラを再発防止するためには、被害者を配置転換するしかないということも考えられます。ただし、就業規則上、配置転換の個別的同意が不要であり、被害者の不利益が大きくないとしても、被害者が希望しない場合は、「自分が被害者なのに、会社には理解してもらえなかった」という思いを強めるかもしれず、トラブル発生の火種になる可能性があります。被害者に対しては十分な説明をし、理解を得ることが肝要です。





