採用面接で応募者にうつ病などの精神疾患の有無を聞いて、答えさせることはできるのでしょうか。
使用者は、どんな人を雇うかを自由に決められます。応募者がきちんと働けるかどうかを調べ、採用に考慮することは違法ではありません。
うつ病などの精神疾患で治療中であることはきちんと働ける健康状態なのかの判断要素になり得ますが、既にうつ病が治ったのであれば、労働能力に影響することはないので、病歴は調査対象から外されるべきです。そもそも病歴は、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により本人の同意を得なければ取得できない「要配慮個人情報」に位置づけられており、精神疾患が業務と直接的な関連性を有しないのであれば、任意での取得も避けるべきでしょう。
一方、使用者が採用面接時に現在の治療状況を聞くことは許されるのでしょうか。通院していること自体が「要配慮個人情報」となるので、このような客観的な事実を聞くことも労働者の同意が必要となります。したがって、治療状況を聞くにしても、本人に十分な説明をし、趣旨を理解してもらった上で、自由な意思で回答できるようにしなければなりません。
治療状況を聞こうとすると応募者が回答を躊躇する可能性があるならば、採用された後に通院時間の確保など就業上の配慮が必要であるかを聞くことは考えられます。
いずれにしても応募者の回答を強制することはできない以上、採用面接において疾病に関する情報を聞き出そうとするのではなく、雇う側が求める仕事ができるかどうかを、応募者の話し方や声の調子、表情などを見極めることとし、面接内容を重視して判断するべきです。うつ病に罹患しているか、本当に働けるかどうかは非言語的な情報から分かるものです。
また、使用者が不必要な調査をすれば、プライバシー権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことにもなります。
B型肝炎ウイルスの感染を無断で調べた金融公庫に対し、「特段の事情がない限り、採用にあたり、B型肝炎ウイルス感染の有無を調査してはならない」とし、損害賠償の支払いを命じた裁判例があります。警視庁が警察官のHIV検査を無断で行ったことも、裁判では違法とされています。
それでは、うつ病を隠して採用した後、うつ病の治療中であることが判明したら解雇できるのでしょうか。
重大な経歴詐称は、解雇の理由になり得ますが、うつ病であっても支障なく仕事ができていれば、安易に解雇することはできません。
うつ病が重症で仕事ができず、職場の秩序も乱すようであれば、解雇することはできます。ただ、その場合も、使用者としては、うつ病が治る可能性を考え、解雇の前に休職させるなどの対応が必要です。
詳しくは、拙著「管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務」の第7章「健康情報保護マネジメント」で論じていますので、併せてご参照いただければ幸いです。
傷病と人事対応に関するその他のQ&A
- メンタルヘルス不調時の相談対応
- 病気を職場に知られたくない労働者への対応
- 病気社員を軽易な業務に就かせた場合の処遇は
- 病気社員の業績評価・能力評価の公平性を担保するには
- 病者の就業禁止-心臓病の労働者が就労継続を希望したら
- 休職中の状況把握-定期的な報告・面接
- 残業禁止の診断に上司や社員が従わない場合の対処
- 病気休職中の私用(運転免許取得)を懲戒できるか
- 職場復帰の可否の判断と職場復帰支援プランの作成
- 受動喫煙を嫌悪する労働者からの配置転換(異動)の希望
- 就業中の居眠りを繰り返す病気社員に受診命令や懲戒処分を課すことはできるか
- 就業中の居眠りを繰り返す病気社員に休職命令、異動命令、懲戒処分を課すことはできるか
- 休職の診断書が提出されない場合は退職扱いにできるか
- 「偽装うつ」が疑われる場合は解雇できるか
- 採用面接でうつ病について聞くことはできるか
- 雇入れ時の健康診断結果により採用内定取消しはできるか