海外赴任をさせるために採用を内定した者が雇入れ時の健康診断を受けたところ、病気により渡航不可との診断を受けた場合、採用内定を取り消すことはできるのでしょうか。
まず、雇入れ時の健康診断の目的は、労働者の適正配置や健康管理に役立てることにあります。あくまで雇用継続が前提となりますから、健康診断で疾病が見つかったからといって、採用内定の取消しや解雇が直ちに許されるわけではありません。
採用内定の取消しが原則として認められないのは、採用内定により労働契約が成立しているからです。ただし、その労働契約には解約権が留保されていると解されています。労働契約に定められた労務提供ができなければ、契約の解除、すなわち採用内定の取消しが認められることになります。とはいえ、解雇には合理的な理由が必要とされており、これは採用内定の取消しも同様です。
内定者の病気が重症で通常の業務に従事できないのであれば、合理的な理由があり、採用内定の取消しが認められます。しかし、期間の定めのない労働契約(正社員)であり、病気が1~2か月程度で治る可能性があるのあれば、まずは勤務開始の延期、就業場所の変更や休職等の措置を講じないと、合理的な理由がないと判断されることがあります。
以上のことは、海外赴任者の健康診断についても同様です。この目的は、定期健康診断のほか、海外での健康障害の予防や疾病の早期発見・早期治療をすることにあるので、健康診断結果による採用内定の取消しが直ちに認められるわけではありません。
しかし、労働契約における職務が海外赴任に限定されており、病気が重症で海外赴任ができないのであれば、合理的な理由があり、採用内定の取消しが認められます。ただ、期間の定めのない労働契約で、病気が治る可能性があり、海外赴任の延期が可能であれば、勤務開始の延期等の措置を講じることが必要となります。また、労働契約が国内勤務も含むものであれば、まずは就業場所の変更や健康障害が寛解するまでの一時的な国内勤務等の措置を講じないと、採用内定の取消しに合理的な理由がないと判断されるでしょう。
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