頸肩腕症候群で休職したオペレーターが、休職中に私用として運転免許を取得していた場合、懲戒処分をすることは問題があるでしょうか。
休職は、その期間中の労務提供義務を免除し、労働者を療養させて傷病が回復するまで解雇を猶予する制度です。職務専念義務も免除されている以上、休職中でも、就業時間中は私用を行ってはならないという義務はありません。
他方、労働者は、休職期間中は療養に専念し、傷病の回復に努める義務(療養専念義務)を有すると考えられます。
ただ、そうであるからといって、就業時間中に傷病を悪化させないような私用を行うことまで禁じられているとはいえません。ですから、一般的に所定労働時間中の私用行為を懲戒処分の対象にすることはできません。
当該労働者は、頸肩腕症候群によりオペレーターの仕事ができる状態ではないのですから、休職中は、この治療に専念し、症状の軽快に努める義務を負っていたといえます。
ただ、頸肩腕症候群は単に自宅で安静にしていればよいというわけではなく、適度な運動をして筋力をつけるということも治療には必要です。そのために所定労働時間中に外出してスポーツジムに通い、頸肩腕症候群を悪化させない、むしろ回復させる運動を行うのであれば、この療養専念義務ともいうべき努力義務に違反するとはいえません。
それでは、運転免許を取得することについてはどうでしょうか。
自動車の運転は、上肢に緊張をもたらすものですから、指先のしびれ感、腕頸、肩の痛みがひどい状態で行えば、頸肩腕症候群に悪影響を与える可能性はあります。しかし、自動車の運転が一般的に頸肩腕症候群を悪化させるものであるとまではいえません。適度の運動は必要なのですから、症状が軽快した段階で、リハビリ的な意味合いも含めて自動車教習所に通ったというのであれば、必ずしも「療養専念義務」に違反したとまではいえないでしょう。
症状が軽快した段階で、当該労働者が運動やリハビリも兼ねて自動車教習所やスポーツジムに通うことについて、それが所定労働時間中であったとしても、懲戒処分を課すことはできません。
ただ、当初は休職期間が1か月間であったのに、自動車教習所に通ったことにより頸肩腕症候群が悪化してさらに休職期間を1か月間更新したという場合や、当初から休職期間は2か月間であったが、自動車教習所に通ったことにより頸肩腕症候群の治療が遅れ、症状の軽快が不十分なままで復職したという場合は、「療養専念義務」に違反したということにもなります。
しかし、そうであるとしても、これは、労働契約上の債務不履行であるため、このことから直ちに使用者が懲戒権を行使することはできず、「療養専念義務」違反により同僚の職務執行が妨害され、職場の秩序が乱されたという場合に懲戒の対象となります。
この場合、頸肩腕症候群は治療期間が長引くことが少なくないので、人事労務担当者としては、当該労働者の頸肩腕症候群の病態や程度、自動車教習所に通ったことがどの程度頸肩腕症候群に影響したのかなどについて、当該労働者から事情聴取をするだけでなく、主治医や産業医の意見も聴取して、慎重に検討すべきです。
運転免許取得の身体的負担が頸肩腕症候群にさほどの影響を与えておらず、当該労働者が復職後に問題なくオペレーターの仕事をこなしているというのであれば、「療養専念義務」違反の程度は軽微であり、懲戒処分を課すのではなく、懲戒処分に至らない厳重注意をすることにとどめるということも考えられます。
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