特に小規模企業においては経営理念が定められておらず、そもそも経営者が必要ないと考えていることも少なくありません。中小企業に経営理念や経営ビジョンは必要なのでしょうか。
経営理念とは、社会の中での企業の存在意義を示すとともに、企業の目指すべき理想を示したものをいいます。企業活動が将来にわたり継続していくという前提をゴーイング・コンサーンといいますが、経営理念は、企業が永続的な活動をするための意思決定の指針となります。特に有事においては、従業員の拠り所となることでしょう。
また、組織の成立条件は、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションの3つです。経営理念の共有により組織文化が形成され、コミュニケーションが円滑となり、従業員の貢献意欲が向上することで組織の3条件を充足し、強みの強化や組織の活性化に繋がります。
そのため、小規模であるからといって直ちに経営理念が不要と断じてはなりません。
そこで、平時より、経営者がその想いを繰り返し説明し、経営理念に沿った言動をして、従業員に範を示します。それとともに、組織全体で価値観を見える化し、組織内で共有することが必要です。
見える化→共有化の過程において、経営者と従業員との間、従業員間のコミュニケーションが活発化しますので、主体的な改善や創意工夫を継続する目標達成意欲が向上したり、新たな事業展開に対する共通目的の理解が進んだりして、従業員の貢献を引き出しやすくなるとともに、組織の一体感を醸成することができます。
一方、経営ビジョンとは、抽象的な経営理念を可視化し、自社の中長期的な到達点を具体的に表現したものであり、従業員、顧客、取引先、地域社会など貢献対象となるステークホルダーに対して示したものをいいます。経営ビジョンも従業員に浸透させる必要がありますが、そのためには事業活動から乖離した内容にならないよう留意します。
そして、経営ビジョンは、経営戦略(ドメイン、資源展開、競争優位性、シナジー)の前提となり、経営理念と比べて外部環境や内部環境の変化に対応して柔軟に見直すことができます。
そのため、経営理念のみを定めておけばよいというわけではありません。
そこで、中小企業においても、経営ビジョンを策定して掲示板の設置や携行カードなどで社内に周知し、ビジョンに基づき作成した経営計画書を配布したり、全従業員参加型の経営ミーティングを定期的に実施して経営状況を開示したりし、経営者と従業員とのコミュニケーションを円滑化することが必要です。
経営理念→経営ビジョン→経営戦略という体系から、全社的に長期経営計画と短期経営計画を策定・実行することが望ましいです。
その結果、全従業員が責任意識を持って職務に取り組むように指向することができるようになります。
経営理念を共有して組織文化を形成することは以上の効果が期待できますが、従業員の同質化が進み、意思決定が硬直的になる可能性があります。経営理念は絶対不変のものではありませんから、環境変化にそぐわなくなったのであれば、従業員とともに検証と改善をすることをお勧めします。