OEM供給から自社ブランド製品販売に転換できるか?

 相手先ブランドによる生産であるOEMの受託者側のメリットとして、量産することで技術的経験を得られ、ノウハウを蓄積できる、一定の生産量を確保できるので、生産設備の稼働率が向上する、安定した売上を確保できる、規模の経済性や経験曲線効果により生産コストが低減することが挙げられます。

 しかし、特定の取引先への依存度が高まると、相手方の業績により受注量が変動するため経営リスクが生じます。そこで、経営リスクを分散させるため、自社ブランド製品を生産・販売することが考えられます。

 自社ブランド製品は、コア技術を特許等により保護することで強みを強化して模倣困難性を高めることができる技術面のメリット、生産者が仕様を決定することから、自社の都合で品種の数を決められる生産面のメリットがあります。また、販売面のメリットとして、リピーターや固定客を獲得できるので、安定した売上が見込める、ブランドの認知とイメージが浸透すると、広告宣伝費を多く掛けずに済む、価格競争に巻き込まれにくいことが挙げられます。

 自社ブランドを確立するには、誰に(顧客層)、何を(顧客機能)、どのように(技術)という事業ドメインを設定した上で、競争力のある独自製品を開発して競合他社と差別化することが必要です。ブランディングを成功させるために、顧客が受け容れてくれる、競合他社とは異なる自社の強みや価値を明確にしつつ、顧客に浸透させます。そこで、経営者は、日頃からアンテナを高く掲げて多様な情報をリアルタイムにキャッチアップしていくことが必要です。その結果として、顧客に自社を選んでもらい市場シェアを高められるとともに、高付加価値な製品を販売して利益率を上げることができるのです。

 ただし、OEM製品の供給だけでは、最終ユーザーの潜在ニーズや市場情報を収集しないため、製品開発に反映できず、新規製品の企画・開発や新規顧客獲得のための営業活動を行わないため、開発や販売に関するノウハウを蓄積していないので、自社ブランドの構築・育成は困難です。

 そこで、▽自社ウェブサイトや営業職を通じて行う顧客アンケートなどの市場調査、▽これらの媒体から、または電話等で直接入ってくる顧客の問い合わせ、相談やクレーム、▽製品を販売している小売店より、顧客ニーズを収集します。開発部門の担当者が顧客と直接接点を持ち、顧客の視点から潜在ニーズを把握することも必要です。情報収集に終始せず、自社ブランドに対する顧客の期待を汲み取ります。その上で、顧客ニーズを踏まえ、開発部門の提案活動そのものを評価し、各従業員の提案の内容・件数を開示することにより、開発部門全体での提案を増加させます。開発部門に限らず、社内コンテストを開催して全従業員から幅広くアイデアを募集します。これらの得られた情報を開発部門と製造部門が共有した上で、自社ブランドに相応しい技術開発や製品開発に反映することが必要です。

 このような情報の収集と反映は別の過程のようにも見受けられますが、自社ブランドを媒介にして顧客とコミュニケーションを取っていることになるのです。顧客の声を聴いて製品の開発・改良だけでなく、新たなイベントを企画するなどして更なるコミュニケーションを取ります。これが市場からの学習です。

 そして、経営者は、市場や競合などの外部環境を分析して事業の機会を捉え、内部環境の状況や変化を分析して自社の強み(知的資産)を把握した上で、新規製品のアイデアを提案した従業員を職種を問わず開発部門に配置転換し、人的・情報的資源を多重利用します。

 また、外部資源を活用して自社資源を補完することが必要です。外部資源の活用には、デザインやマーケティングの専門的知見を有する企業との共同開発や業務提携をすることにとどまらず、自社ブランド製品の開発・設計経験や営業経験のある人材を採用して管理職に登用することや、外部講師による研修を受講するなどして製品開発力や営業力を計画的に強化することも含まれます。多様な内部人材や外部人材と交流することにより組織を活性化し、強みを強化することができるのです。

 新規製品の開発に当たっては、製品アイテムをいたずらに拡大させると、ブランドコンセプトが不明確になり、ブランドイメージが下がったり、マーケティング資源を分散させたりしてしまいます。そこで、まず自社の強みを明確にした上で、その強みを活かすことができるか、主力製品とは別の製品を開発するときは主力製品との相乗効果が発生するかを検討します。これにより経営資源の分散を回避し、競合他社との差別化を図ることができない製品やカニバリゼーションが発生する製品の開発を予防することができます。

 そして、新規製品の開発には成功も失敗もありますが、いずれの理由も明確にして教訓を導き出し、これを組織知として蓄積することにより、次の新規製品開発に活かします。どのような(失敗)経験をしたか、多様な経験を積んだかだけでなく、個々の経験から何を学習したかを掴むことが、環境変化への対応能力を向上させて新規製品開発の成功確率を高めるのです。

 以上の取組みは一例に過ぎませんが、外部資源やITを活用して製品開発と販売チャネルの構築を両輪と位置づけて活動を継続することが、自社ブランドを構築してブランド価値や市場シェアを高めるものとなり、もって競合他社との差別化を図り、または先発参入の競争優位性を築くことに繋がるといえます。

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