電車での通勤を届け出ている社員が会社に内緒で自転車通勤をしていて、その途中に車と衝突して大ケガをしたことがきっかけで、無許可での自転車通勤が発覚した場合、これを理由に、懲戒処分に付することはできるのでしょうか。
まず就業規則に、「制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」(労働基準法89条9号)について定めをしなければなりません。就業規則に規定を置けば無限定の懲戒権が認められるかというと、そうではなく、その規定が合理的で、労働者に周知させていなければ、労働契約の内容にはなりません(労働契約法7条)。電車やバスが頻繁にある都市部についていえば、一般的に通勤の手段として公共交通機関を利用することは合理的であり、自動車や自転車の利用は交通事故などの危険を伴いますので、就業規則において、これを禁止することも合理的といえます。このような条項を就業規則に設けて社員に周知し、この規定に違反した場合には懲戒の対象とすることはできます。
就業規則に根拠規定があり、使用者に懲戒権が発生したとしても、その行使がすべて有効になるものではなく、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」(労働契約法15条)とされています。したがって、公共交通機関を利用するのが合理的であるとしても、自転車通勤が著しく不合理というわけではない、自転車通勤により遅刻等をしたことはなく業務に支障をきたしたことはない、会社の業種や社員の職種・職位から自転車で通勤しても、職場秩序が乱されることはなく、企業の信用が失墜するわけではない、会社はこれまで通勤手段を調査せず、黙認してきたこともあるといった事情が認められるのであれば、懲戒処分が権利濫用として無効となることもあります。
上記のような事情が認められ、社員が自転車通勤をやめて反省し、誠実に職務を遂行しているというのであれば、まずは今後同様の行為を繰り返すのであれば処分対象にすることを警告した上で、懲戒処分に至らない厳重注意をすることにとどめるということも考えられます。