スマートフォン(スマホ)の普及が進んでおり、社員が外出先でも手軽にインターネットに接続でき、資料保存もできる利点から、私物のスマホを仕事に使うことを認める会社が増えています。ただし、社員の使い方には注意が必要です。
社員は、会社に対し、労働契約に基づき、正当な理由なく、業務上知り得た企業秘密を漏らしてはならない義務を負います。これを守秘義務といいますが、たとえ誓約書を書いていなくても、企業秘密を漏らして会社に損害を与えたら、社員は損害賠償責任を負います。
このことはスマホでも同じです。社員が、私物のスマホと会社のネットワークを無断で接続し、使用中に紛失したり、ウイルス感染したりして、会社の機密情報を外部に漏らすことになれば、たとえ故意はなくても、過失があれば損害賠償責任を負うことになります。
しかし、会社としては、社員に損害賠償をさせればよいというものではありません。企業秘密の漏洩により取引が中断したり、社会的な信用を失ったりします。
そこで、社外へのデータの持ち出しなど私物のスマホの取扱いについて遵守事項を決め、就業規則で確認すべきです。明確に禁止されているデータを持ち出せば、現実に損害が発生していなくても懲戒処分の対象とすることを定めておいた方がよいです。
就業規則に禁止規定がない場合でも、社員には、私用と業務用のデータの保存場所を分ける、利用しなくなった業務データをすぐに消去する、ウイルス対策ソフトの更新を怠らない、などの遵守事項を決めて注意をさせるべきです。
ただ遵守事項を決めればよいというものではなく、社員の意識を高めるために研修をしましょう。
また、社員には会社から業務データ使用の許可を得るよう指導するのはいうまでもありませんが、その際、「守秘義務に違反した場合は懲戒や損害賠償、刑事告訴の対象になっても異議はありません」といった内容の誓約書にサインを求めることも検討することになります。しかし、漏洩事故をめぐる裁判例を見ると、故意やよほどの不注意によるものでない限り、第三者への開示が目的ではなく、開示が合理的な範囲にとどまっていれば、懲戒を否定する判断が示されています。会社も私物のスマホの使用を許可したのですから、懲戒事由を就業規則に定めて社員に認識させることは必要であるものの、だからといって、社員を安易に懲戒すべきではありません。
一般論として、企業秘密の漏洩に故意または過失があれば、社員は損害賠償責任を負いますし、懲戒処分の対象にもなるのですから、会社としても、十分な説明をした方がよく、社員が萎縮するような誓約書へのサインを強制すべきではないでしょう。