社員旅行での宿泊先で夕食も兼ねた懇親会が終了した後、社員が酔って宿泊先の備品を壊した場合、社員旅行とはいえ、懇親会が終了した後は出勤扱いとはいえず、宿泊先であっても社員の私生活と同様の時間といえます。その時間帯に、酔って宿泊先の備品を壊した行為に懲戒処分を課すことはできるのでしょうか。
宿泊先の備品を壊すことは器物損壊罪に当たります。酒に酔って身体がよろけた際に備品を壊したということであれば、故意ではなく、過失によるものですので、刑罰は科されませんが、宿泊先に対する損害賠償責任を負うことになります。この責任は、備品を壊した社員だけでなく、懇親会後の時間が勤務時間外であっても、職務と関連し、職場の延長ととらえられる可能性があり、会社の使用者としての損害賠償責任も認められることは否定できません。したがって、宿泊先の備品を壊す行為は、会社の社会的評価に悪影響を及ぼすことは明らかです。
例えば、会社が旅行業であり、宿泊先の玄関には会社の名称が掲げられているのに、コンプライアンス担当の社員が器物損壊をしたというのであれば、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が重大であるといえ、懲戒処分を課すことは認められるでしょう。
会社としては、当該社員から十分かつ詳細な事情聴取を行い、その事実関係と動機・目的等を正確に把握し、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情」(労働契約法15条)を調査しなければなりません。
調査の結果、当該社員の器物損壊が故意によるもので宿泊先に多額の損害を及ぼすものであるという場合は、懲戒処分を検討すべきでしょう。