就業規則に基づく起訴休職処分

 社員が、通勤中の電車内で痴漢を行ったとして逮捕・勾留され、起訴された場合、会社は就業規則により起訴休職処分にすることができるのでしょうか。

 就業規則に起訴休職を定めた会社は少なくありません。その趣旨は、企業の社会的信用の維持、職場秩序の維持、懲戒または解雇などの処分の留保または猶予などです。

 このことから、裁判例は、労働者を起訴休職にすることができるケースを、①当該社員が起訴されたこと、または起訴後も引き続き就労することによって、企業の対外的信用が失墜し、または職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合、②当該社員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合に限定しています。

 会社の業種、当該社員の職種や職位からみて、当該社員が通勤中の電車内で痴漢を行ったとして起訴されたとしても、直ちに企業の対外的信用が失墜するおそれがあると認められなければ、懲戒を検討することはできません。また、例えば、当該社員の職務内容が渉外や広報宣伝の活動をするとか、セクハラ防止の活動をするというものであれば、これとは別の職務に配置転換(異動)を検討した方がよいでしょうが、起訴されたという事実のみによって、職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあると安易に認められるものではありません。

 さらに、当該社員が保釈されているとしたら、身柄の拘束を受けているわけではなく、刑事裁判への出頭は年次有給休暇の取得により可能ですので、起訴されたからといって直ちに、労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあるとは認められません。

 したがって、社員が起訴されている事実のみをもって、起訴休職にすることが認められるものではなく、社員が身柄拘束をされていないのであれば、それを前提として、社員が従事する職務の性質、公訴事実の内容(迷惑防止条例違反か強制わいせつ罪か)などの事情に照らし、上記①または②の場合に当たるかどうかを判断することになります。

 仮に上記①または②の場合に当たるとして当該社員の起訴休職が命じられたとしても、起訴休職は懲戒処分ではないものの、休職中は無給とされることが多く、労働者は懲戒処分としての減給以上に過酷な状況に置かれる場合があるので、減給、出勤停止、降職と比較して、無給の起訴休職処分が著しく均衡を欠くと認められると、起訴休職が無効となることがあります。

 社員に前科はなく、保釈されたのであれば、起訴休職処分にするのではなく、会社の対外的信用を害するおそれがなく、職場の混乱が避けられ、当該社員の就労により業務に支障が生じることはないというのであれば、起訴休職にするのではなく、女性社員が少ない職場など別部門に配置転換(異動)することも検討した方がよいでしょう。

 当該社員が起訴休職となり、刑事裁判で争った結果無罪となった場合は、その時点で起訴休職の事由が消滅するので、会社は当該社員を職場復帰(復職)させなければなりません。

 当該社員を復職させる際には、原職復帰をさせるのが原則です。ただ、原職が、対外的な折衝を行う必要がある部門や女性社員が少なくない部門であり、ここに配置することを当該社員が希望しないという場合には、配置転換(異動)が検討されることになります。

 また、無罪であるとすれば、起訴休職の有効性が問題になってくる場合も出てきますが、無効であるならば、当然ながら停止されていた給与を支給するとか、昇給を遡及的に行うとかの措置が必要となります。

 人事労務担当者としては、起訴休職が有効であるとしても、当該社員の労働意欲を低下させないという観点から、このような措置が検討されるべきでしょう。

 

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