企業合併が行われると、従前の労働条件はそのまま合併後の法人に承継されます。そうすると、合併後の法人に複数の労働条件が併存することになるので、使用者としては異なる労働条件の併存状態を解消しようと考えるのは自然なことです。特に労働時間制について統一が必要となり、この場合、就業規則に定めた労働条件を変更する業務上・組織上の必要性が認められます。
労働条件の調整は、全て高い方に合わせるのであれば労使間の問題は生じませんが、それはコストアップにつながります。逆に全て低い方に合わせるのは変更内容の合理性が認められない可能性があります。結局は、就業規則を変更しても、トータルとしてなるべく労働者の不利益にならないように調整するというのが現実的でしょう。
調整の順序は、就業規則を変更し、全ての労働条件を同時に調整するのがベストですが、まず区々では労務管理上の問題が大きい労働時間制の調整がまず必要でとなります。また、影響の少ない福利厚生などから調整を始めるのもよいでしょう。そして、賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条件の調整を順次行っていくことが肝要です。
労働条件の調整過程で賃金を減額する場合、それは労働者にとって重要な労働条件に関し実質的な不利益を及ぼすものなので、就業規則を変更するには、労働者に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要です。最高裁は、7つの農協が合併して、給与額の引き上げや定年延長などを行う一方、1つの農協の退職金支給率を引き下げて他の6農協の支給率へ統一した事案について、総合的に判断して高度の必要性があるとして変更の合理性を認めました。
賃金減額においては、①総人件費が減るのか、減るとしてどの程度か、②賃金の配分方法が変わるのか、変わるとしてどのような内容か、③中高年層の賃金を減額して若年層の賃金を増額させるのかといったことも考慮されます。最高裁判例は、就業規則を変更して、満55歳以上の銀行員の賃金を大幅に減額するのは、一部の労働者のみに大きな不利益を与えることになるから、賃金体系の変更の効力を否定しています。
安易な賃金の減額は労働者の労働意欲を阻害し、労働生産性が低下することがありますので、就業規則を変更するには慎重に検討しなければなりません。
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