「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(中央労働災害防止協会)は、大企業向きだし、わが社ではそれほどメンタルヘルス不調が発生しないから必要ないと考えている中小企業があるかもしれませんが、現在は中小企業向けのマニュアルも出回っており、いつメンタルヘルス不調が発生するかを予測することは困難ですから、やはり事前の準備が必要です。最初からあきらめず、それぞれの企業の実情に応じた職場復帰支援プログラムを作成することが肝要です。
ところで、休職期間中が無給であっても、企業は被保険者負担分も含めて社会保険料を支払わなくてはなりません。企業の負担を少しでも減らすために、住民税については普通徴収に切り替えることが考えられます。ここで問題となるのが、被保険者負担分の支払方法です。職場復帰後の初回の給与で社会保険料が全額控除されて生活ができなくなるといった労働者からの相談がありますが、分割払いにするなどして復職者の負担を減らすことを検討した方がよいでしょう。休職者の理解を得た上で、合意書にサインさせることが法的には無難です。
休職制度や傷病手当金を理解してもらうのには工夫が必要です。休職者だけでなく、その家族や管理職も休職対応に不慣れなのですから、本人以外の関係者にも職場復帰支援プログラムを理解してもらう資料づくりが必要でしょう。
職場復帰支援プログラムを含めて1枚のシートに分かりやすくまとめることが有効です。まとめる項目としては、
- 年次有給休暇の残日数
- 本人の休職可能な期間
- 療養から復帰までの流れ
- 職場復帰の条件
- 就業規則の該当条文
- 傷病手当金の受給可能な期間と金額
- 休職中の社会保険料や源泉所得税等の立替金の額と返済方法
- 休職中の窓口
などが挙げられます。
資料の交付だけでなく、丁寧な説明をすることが定石です。
また、主治医にも休職制度や傷病手当金の説明をしておくとよいでしょう。職場復帰に当たって初めて主治医と会うのではなく、休職時から主治医との関係を築くことが肝要です。産業医や保健師が主治医と早い段階で関係構築をしておくと、職場復帰も円滑に進むと思われます。
これらの措置を講じるために、人事労務管理スタッフ、産業保健スタッフ、管理監督者が連携するための社内窓口を一本化した方がよいでしょう。
詳しくは、拙著「管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務」の第5章「メンタルヘルス不調の人事対応マネジメント」で論じていますので、併せてご参照いただければ幸いです。
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