親族と従業員のどちらに事業承継すべきか?

 事業承継をする際に、親族と企業内の役員・従業員のいずれを後継者として選定すればよいのでしょうか。

 親族内承継では、生前贈与や遺言により中小企業の株式や事業用資産の取得費用を抑制できるため、所有と経営の一致を図ることができます。親族外承継と比べて親族の理解を得られるので、後継者を早期に決定して計画的な後継者育成をすることができ、創業者の経営理念や組織文化が浸透しやすいです。所有と経営の一致により、経営者と出資者の間、または出資者の間における利害調整をする必要がなく、組織としての独立性を確保できるため、大局的な意思決定を迅速にできるとともに、長期的視点に立った経営をすることができます。

 しかし、親族内に後継者候補が見つからない、後継者候補が経営者に適任な人材でなければ従業員や取引先の信頼を得られないリスクがあります。一方、後継者候補が複数いる場合や株式が親族内で分散している場合は親族内でトラブルが起きやすく、特に株式や事業用資産の後継者候補に対する集約について他の相続人に対する配慮をしておかないと、非後継者の相続人との間で遺産分割や遺留分侵害額請求などの相続トラブルが起きるおそれがあります。

 親族内に後継者候補がいなければ、企業内の役員や従業員を後継者とする親族外承継をすることが考えられます。役員等は自社の業務に精通しているため、他の従業員や取引先に受け入れられやすく、経営能力や人望のある社内人材を選定・育成する方が、経営方針、組織文化や業務プロセス等を承継しやすくなります。

 従業員承継では、所有と経営を一致させるために役員等が株式や事業用資産を取得する必要がありますが、役員等がその資金を有していなければ資金調達の支援をしなければなりません。逆に役員等が株式を取得せずに所有と経営が分離した状態にしておくと、株主である親族の意向に左右され、大局的な意思決定を迅速にできなくなります。

 このように親族内承継と従業員承継には一長一短があります。いずれかに偏するのではなく、原則として誰が後継者に適任であるか(コミュニケーション能力やリーダーシップなど経営者としての資質、経営に対する熱意・覚悟)を基準にして総合的に判断することが望ましいです。親族と役員等にそれぞれ後継候補者がいる場合は、親族の後継候補者が適任であれば、親族を後継者とし、役員等をその右腕とすることが、所有と経営の一致や他の相続人の理解という観点から無難な選択といえるでしょう。

事業承継に関するその他のQ&A


法律相談をご希望の方へ 労働問題に特化して25年の実績と信頼。弁護士 佐久間 大輔にご相談ください。 電話番号 03-3500-5300 受付時間:平日 9:00~18:00 赤坂見附駅(銀座線・丸ノ内線) 徒歩3分 永田町駅(半蔵門線・有楽町線・南北線) 徒歩5分