M&Aによる統合効果を最大化するための留意点とは?

 M&Aにより事業承継をする場合、売主側・買主側の経営者は、経営上または組織運営上、どのような点に留意すべきでしょうか。

 売主側の経営者としては、譲渡代金や役員退職慰労金により今後の生活資金を獲得すること、取引先との関係を維持すること、従業員の雇用や労働条件を維持すること等を買主との間で合意し、中小企業の事業活動が継続できるようにします。

 一方、買主側の会社が売主側の会社を合併する場合、財務面につき、損益計算書より、被吸収会社に超過収益力はあるか、人件費等のコストが増加するかを検討します。特に純損失を計上している被吸収会社は収益獲得能力に問題があり、将来キャッシュフローを十分に得られず、買収資金の回収や借入金の返済原資の獲得ができないばかりか、収益を生み出すために合併後に追加の投資が必要となるリスクがあるため、ディスカウント・キャッシュフロー法などから企業価値を慎重に評価する必要があります。また、貸借対照表より、有形固定資産の重複があるか、被吸収会社の負債額が合併後の負債比率を上昇させるものであるかを検討します。貸借対照表に現れていない未払賃金や債務保証などの簿外負債農務も確認しなければなりません。

 次に組織面につき、異なる組織文化を有する企業が一体となるので、両社の従業員の間に対立が生じることを抑制し、被吸収会社の従業員に吸収会社の経営理念や組織文化を浸透させて組織の一体感や協力意識を醸成しなければなりません。そのため、売主側の経営者と経営顧問契約を結ぶことにより、既存の取引先や顧客との関係を承継して迅速な事業展開を図るとともに、売主側の経営者を通じて被吸収会社の従業員とのコミュニケーションを取り、吸収会社の組織文化への統合を円滑に進める必要があります。

 また、合併は権利義務関係を包括的に承継するので、被吸収会社の従業員の労働条件をそのまま引き継ぎます。今後の組織運営においては、労働条件を統一する必要がありますが、吸収会社より賃金が低い被吸収会社の従業員の賃金等を上げないのであれば、待遇差により被吸収会社の従業員のモチベーションが低下して退職による人材の流出が起こり、被吸収会社の技術やノウハウが承継できずに合併の効果が小さくなります。逆に吸収会社より賃金が高い場合は、被吸収会社の従業員の賃金を引き下げて人件費の増加を抑制する必要がありますが、安易な労働条件の不利益変更は被吸収会社の従業員のモチベーションを低下させてしまいます。そこで、経過措置や代償措置を設け、労働条件を全体的に見て被吸収会社の従業員に不利益がないように統一することが肝要です。

 労働条件を統一する際には、吸収会社の従業員にも配慮しなければなりません。被吸収会社の従業員の労働条件を優遇した場合に不公正な処遇を行ったとして、吸収会社の従業員の方がモチベーションを低下させるおそれがあるからです。

 このように合併は一つの組織体になるので、組織文化や労働条件の統合コストがかかるのです。

 これに対し、買主側の会社(または経営者)が売主側の経営者より株式を買い受ける場合、売主側の会社は別組織になるので、組織文化や労働条件を統合する必要はありません。

 しかし、企業グループとなることにより、それぞれの会社において経営管理が必要となり、同質の経営資源が分散し、グループ企業全体に必要な経営資源が増加するだけでなく、グループ企業全体として大局的な意思決定をすることができなくなります。

 そこで、グループ企業間において計画的な出向を行い、人材の流動性がある組織運営を行うことで人的資源や情報的資源を多重利用できるようにします。

 このことは吸収合併により被吸収会社の事業を事業部として事業部制組織に移行した場合も同様です。計画的な配置転換を行って両社の従業員がそれぞれの事業の理解を進めることにより組織が活性化し、従業員の多様性による新たな価値を創出することができるのです。

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