事業承継において、遺言は、経営者が生前に遺言書を作成しておくと、死後に遺言に基づき後継者に対して株式や事業用資産の承継がなされます。
遺言の効力は経営者が死亡してから、すなわち相続が開始してから生ずることになります。その意味では、経営者の生前に事業承継が完了している売買や生前贈与に劣るといえましょう。
遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言が利用されています。
自筆証書遺言は遺言者が遺言の本文や日付を手書きしなければならないのですが、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合は、この目録を手書きする必要はなく、ワープロで作成することもできますし、預金通帳や登記事項事項証明書などを添付することもできます。ただし、本文と添付資料の日付けとの整合性に注意しましょう。
遺言書が出来上がったら、本文だけでなく、目録の毎葉(両面印刷の場合はその両面)にも、遺言者が署名押印をします。なお、押印については、同じ印鑑を押捺する必要はありません。
自筆証書遺言は遺言を書くのに費用はかからず、証人は不要なので、遺言者が単独でいつでも書くことができるし、いつでも書き直すことができるという長所があります。しかし、紛失や、相続人等による隠匿・変造のおそれがあり、形式が整わないと無効になるという短所があります。これらの短所については、遺言者が自ら遺言書保管所(法務局)に出頭して遺言書の保管を申請できるようでしたら、解消できます。しかも、遺言書保管制度を利用すると、家庭裁判所での検認手続が不要になるとのメリットもあります。
これに対し、公正証書遺言は公証役場で作成します。遺言者が口授した内容を公証人が書き、証人2人以上の立会いのもとで、証人(2人以上)を含めた全員で署名、押印して作成します。公正証書遺言は、紛失や偽造・変造のおそれがなく、形式が整わずに無効となることもなく、家庭裁判所の検認手続が不要となり、遺言執行者が速やかに遺言執行をすることができますので、これが長所となります。
公正証書遺言でも、費用と手数をかければいつでも作り直すことができますので、遺言者である経営者にとってみれば、後継者の資質を見極めるなどして承継の有無および内容を再検討することができます。他方、受遺者である後継者にとってみれば、遺言者がいつでも遺言の全部または一部を撤回することができるので、後継者としての地位が不安定になり、これが後継者の意欲をそぐなど事業承継を円滑に進める障害となる可能性があります。遺言による場合でも、経営者は慎重に検討すべきですし、場合によっては後継者とよく協議をして遺言を作成することが必要でしょう。
後継者に株式や事業用資産を承継することばかりを考え、後継者とならない相続人の遺留分を侵害してしまっては、非後継者の相続人との紛争が誘発されます。非後継者が不満を持たないよう、他の財産(自宅用の不動産や流動性の高い現金・預金など)を相続させるといった配慮をした方がよいでしょう。非後継者が経営者の保証債務の履行をしないですむような手当てをしておくことも必要です。
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