生前贈与は、売買と同様に契約ですから、経営者の生前に行うものですが、無償である点が売買と異なります。
生前贈与は、売買と異なり、受贈者である後継者が購入資金を準備する必要はなく、また、遺言のように経営者の遺言能力や遺言の方式不備により効力が否定されず、死後に遺言執行をする間の経営が不安定となる状況が生じることはなく、経営者の生前に株式や事業用資産の承継が完了している点がメリットです。他方、後継者とならない相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がある点がデメリットといえます。このデメリットの低減策として、相続人に対する贈与が相続開始前の10年間にしたものに限り遺留分を算定するための財産の価額に算入されるため、早期に株式等を後継者に贈与することが考えられます。ただし、経営者と後継者が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、10年より前の贈与も算入対象となるため、早めに贈与したときでも、非後継者の遺留分を考慮することが望ましいでしょう。
無償であるとしても、負担付で贈与することはできます。例えば、受贈者である後継者に対し、贈与者である経営者を扶養するとの義務を負わせることができます。この義務(負担)を履行しないときは、贈与者は贈与契約を解除することができます。
後継者に株式や事業用資産を贈与するのであれば書面を作成した方がよく、書面による贈与は当事者が一方的に撤回することはできません。逆に、書面によらない贈与は履行の終わった部分を除き当事者が撤回できますので、特に後継者側が不利になるでしょう。
書面を作成して贈与することが望ましいとしても、後継者に株式や事業用資産を無償で承継させてしまうことに懸念があれば、一定の条件を付し、その条件(停止条件)が成就したときに贈与の効力が生ずるとすることができます。例えば、承継する事業に必要な資格や許認可を得たことを条件とすることが考えられます。条件を付すことにより段階的に贈与をすることが可能となります。逆に条件(解除条件)が成就したときに贈与の効力を失うこととすることもできます。例えば、後継者が経営者の子と婚姻したことにより事業承継を行う場合、その婚姻関係が破綻したことを条件とすることが考えられます。条件を付すと、いったん贈与するとしても、受贈者である後継者の資質を見極めることができるようになります。ただ、後継者の地位を不安定にしますので、慎重に検討しましょう。
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