事業承継では、経営者の生前に後継者に対して株式を売り渡すことがあります。その際は、後継者が株式や事業用資産の購入資金を準備したり、贈与税や相続税の納付資金を準備したりしなければなりません(納税猶予の特例があります)。そこで、経営承継円滑化法に基づく信用保証協会の別枠保証や日本政策金融公庫等の貸付けを利用するなど資金調達を検討する必要があります。
これとは別に、中小企業が後継者以外の株主(経営者の妻など)から自己株式を買い取り、後継者の持株比率(議決権割合)を高め、これにより後継者の地位を安定させることも考えられます。この場合も、株式購入資金を調達する必要がありますが、経営承継円滑化法に基づく信用保証協会の別枠保証を利用できます。
株式を売買する場合、株式譲渡契約書において、株式の種類、数、売買代金を特定し、株券や株主名簿の書換に必要な書類の交付、代金の支払期日や支払方法を定めます。ただし、自己株式を取得するのと引き替えに交付する金銭の総額は分配可能額を超えてはならず、また、株主全員を対象とする場合は株主総会の普通決議が、特定の株主から取得する場合は株主総会の特別決議が必要となります。
株券発行会社においては、譲渡人が譲受人に当該株式にかかる株券を交付しなければ、その譲渡の効力は生じませんので、代金支払いと引き替えに株券交付をすることを株式譲渡契約書に定めておきます。譲渡人が株券の交付を受けずに株式を取得していた場合は、株券を発行した上で譲渡する必要があります。株式が輾転譲渡されていた場合は株券不交付により無効となっている株式譲渡以降の株式譲渡を全てやり直さなければなりません。
これに対し、株券不発行会社においては、売買の目的物である株式の株主名簿上の名義を譲渡人から譲受人に書き換えるために必要な書類の交付と引き替えに代金を支払うことになります。
自己株式の売買では問題となりませんが、譲渡制限株式を発行する会社では株主総会または取締役会の譲渡承認が必要となるので、代金完済時までに売主は承認を得ておくものとし、承認が得られない場合は株式譲渡契約を白紙に戻すか、手付金の倍返しをして株式譲渡契約を解除するといった条項を入れることが考えられます。
M&Aによる株式譲渡の場合は以上の措置だけでは足りず、譲渡人は、株式譲渡契約書において、▽当該株式が有効に発行されたこと、▽株券が当該株式の権利を表章するものであること、▽売主が当該株式全部についての権利者であり、担保権が設定されていないこと、▽会社の財産、損益、負債等について、財務諸表に記載されたとおりであることなどを保証しなければなりません。この保証に違反した場合は、譲受人は解除できる、譲渡人は損害賠償責任を負うとの条項も株式譲渡契約書に入れることを検討します。
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